相続登記が済んでいないアパートは売却できる?名義整理の手順
この記事のポイント
- 結論:相続登記の完了前でも、査定・売却準備や契約は進められます。買主へ名義を移すには相続登記が必要で、決済前に終えるのが基本です。
- 期限:相続登記は2024年4月から義務化。施行前の相続は原則2027年3月31日が申請期限ですが、売却の期限ではありません。
- 注意点:「相続人申告登記」だけでは売却も抵当権設定もできません。
- 順番:名義の整理(相続人の確定・遺産分割・相続登記)と、査定・売却準備は並行できます。共有名義は全員の合意が前提です。
「親が残した一棟アパートを売りたいが、名義が亡くなった父のままになっている」「遺産分割の話し合いがまとまっていない」「きょうだいと共有になっていて、誰が動けばよいのか分からない」。相続した一棟アパートの売却のご相談で、最初につまずくのはこの3つです。
結論からお伝えすると、相続登記の完了前でも、査定や売却の準備、売買契約は進められます。買主へ名義を移すには相続登記が欠かせず、決済(代金の支払いと引渡し)の前に完了させるのが基本です。名義が整う前からご相談いただけます。
2024年4月1日から、相続登記は法律上の義務になりました。それ以前の相続も対象で、原則として2027年3月31日が申請期限です(施行後に取得を知った場合は、その日から3年以内)。これは登記申請の期限であって、売却の期限ではありません。過料についても、法務省の案内では、登記官の催告に正当な理由なく応じなかった場合に裁判所へ通知する運用とされています。
一方で、多くの方が引っかかる点があります。相続登記の代わりに使える簡易な「相続人申告登記」という制度は、登記の義務を果たしたことにはなりますが、権利関係を公示しないため、売却や抵当権設定の前提にはなりません。
本記事では、投資用一棟収益物件の仲介を行う立場から、相続登記・遺産分割・共有名義の整理を「売却までの順番」として整理します。税金の論点は別記事相続した一棟アパートを売却する際の税金と注意点で、売却活動そのものの進め方は一棟アパート売却の流れ|5ステップ・期間目安で扱っているため、本記事では触れません。
登記の申請手続は司法書士、相続人の間に争いがある場合の交渉や調停は弁護士の業務範囲です。当社は、それらの専門家と連携しながら、物件の現在価値の把握と売却の段取りを担います。本記事は一般的な情報提供であり、制度の内容は2026年9月時点の法務省・国税庁の公表情報に基づいています。
本文の後半には、決済までに確認する名義のポイントと、そろえる書類の一覧を掲載しています。相続人が複数いる場合も、名義と書類の状態を早めに把握しておくと、話し合いの土台が整います。
相続登記が済んでいないアパートは売却できる?——結論と全体の流れ
結論から言うと、相続登記が未了のアパートでも、登記の段取りを整えれば売却はできます。相続登記を省略できるわけではありません。相続した不動産を第三者に売る場合、登記は「亡くなった方(被相続人)→相続人→買主」の順に移っていく必要があり、被相続人の名義から買主へ直接移すことはできません。そのため、売主となる相続人への相続登記は、決済の前に完了させておくのが基本です。必要書類が整い、司法書士・買主・融資を行う金融機関が確認したうえで、決済時に相続登記と買主への所有権移転登記を続けて申請する(連件申請)場合もあります。登記の準備が整わなければ、決済の延期などが必要になります。
契約の前に確認すること——登記が未了のまま契約する場合
相続登記が未了でも、売買契約を結ぶことは可能です。ただし、契約の前に、売主となる相続人は誰か、その人に売却する権限があるか、共有の場合は売主となる全員に売却の意思があるかを確認します。そのうえで、登記が済んでいない理由と完了の見込みを買主に説明し、決済日までに登記の準備が整わない場合の決済延期や契約解除などの扱いも、契約内容として確認しておく必要があります。
決済の場では、司法書士が、相続登記が完了していること(続けて申請する場合は、相続登記に必要な書類もそろっていること)を確認したうえで、買主への所有権移転登記を申請します。買主が融資を利用するときは、金融機関の抵当権(借入の担保として金融機関が設定する権利)の設定登記も同時に申請されるため、名義のつながりはいっそう厳格に確認されます。
したがって、「相続登記が済んでいないから売却の相談ができない」という順番で考える必要はありません。「決済前に登記を終える段取りを組んだうえで、査定や準備を先に進める」が実務上の答えになります。
登記と並行して進められること
登記の完了を待たずに進められることは、意外に多くあります。物件の現在価値を把握するための机上査定(現地を見ずに資料から価格の目安を出す査定)、レントロール(入居状況と賃料の一覧)や賃貸借契約書・管理委託契約書の整理、相続人それぞれの意向確認、戸籍などの書類収集、遺産分割協議そのものです。これらは登記の準備と重なる部分が多く、先に着手しておくほど、登記完了後の売却がまとまりやすくなります。
登記から決済までの順番(5段階)
相続した一棟アパートを売却するまでの順番は、大きく次の5段階に整理できます。
- 相続人と物件の確定:戸籍で相続人の範囲を確定し、登記事項証明書(登記簿謄本)で物件の名義・住所・抵当権の有無を確認します。
- 遺産分割(または法定相続分での整理):誰がどの割合で取得するかを決めます。まとまらない場合は法定相続分(民法で定められた相続割合)で登記する選択肢があります(後述)。
- 相続登記:法務局に申請し、相続人名義に変更します。
- 売却準備:査定と媒介契約(不動産会社に売却を依頼する契約)、販売資料の作成です。相続人が複数いる場合は、売主となる全員の意思確認が必要です。進め方の詳細は、冒頭でご案内した売却の流れの記事に譲ります。
- 契約・決済:売買契約を結び、決済で相続登記から所有権移転登記までの連続性を確認したうえで、代金の受領と引渡しを行います。
段階2と3の順番は、遺産分割の状況によって入れ替わることがあります。次の章から、期限と制度の内容を順に見ていきます。
相続登記の義務化と申請の猶予期限(2027年3月31日)
不動産登記法の改正により、2024年(令和6年)4月1日から相続登記の申請が義務になりました。売却を考えるうえで押さえておきたいのは、「いつまでに」「何をしないと」「どうなるのか」の3点です。
義務の内容——「知った日」から3年以内、施行前の相続は原則2027年3月31日まで
相続によって不動産を取得した相続人は、自分が相続人であること、そしてその不動産を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請する必要があります。起算点は「亡くなった日」ではなく「知った日」です。遺言で取得が指定されていた場合も、起算点は自分が相続人であることとその不動産を取得したことを知った日になります。
この義務は二層になっています。基本の義務は、遺産分割がまとまる前であっても、相続人であることと、その不動産を相続で取得したことを知った日から始まっており、法定相続分に基づく登記でも履行できます。そのうえで、法定相続分で登記した後、遺産分割によってそれを超える持分を取得した相続人には、当初の義務とは別に、遺産分割の成立日から3年以内に、その内容に応じた登記をする義務が加わります。後述の相続人申告登記で基本の義務を果たした場合も、その後の遺産分割で不動産を取得した相続人には、分割成立日から3年以内の登記義務が生じます。
この義務は、2024年4月1日より前に発生した相続にも適用されます。施行前に相続した不動産で登記がまだの場合は、原則として2027年(令和9年)3月31日までに申請する必要があります(施行後に相続による取得を知った場合は、知った日から3年以内)。「父が10年前に亡くなり、アパートの名義がそのままになっている」というケースは、まさにこの対象です。
過料の実際——催告を経て裁判所へ通知される運用
正当な理由がないのに申請をしない場合、10万円以下の過料の対象になります。ただし、期限を過ぎた瞬間に自動的に科されるわけではありません。法務省の案内では、登記官が義務違反を把握した場合にまず催告書を送付し、それでも正当な理由なく申請がされないときに裁判所へ通知する、という運用が示されています。
正当な理由の例としては、相続人が極めて多数で書類の収集に時間がかかる場合、遺言の有効性や遺産の範囲が争われている場合、本人が重病である場合、経済的に困窮している場合などが挙げられています。判断は登記官が個別の事情を確認して行います。
期限と売却の関係——「登記の期限」であって「売却の期限」ではない
2027年3月31日は、あくまで登記申請の期限です。この日までに売却しなければならない、という制度ではありません。売却の時期は、物件の収益状況や市況、相続人の意向で決めるものです。
その一方で、相続登記に必要な戸籍の収集には、被相続人の出生から死亡までをさかのぼるため、数週間から2か月程度、本籍地の異動が多い場合はそれ以上かかることがあります。期限の前に登記を済ませておけば、売却を決めた時点で「すぐに動ける状態」になっているという意味で、登記の完了は売却の選択肢を広げる準備でもあります。
相続の申出だけでは売れない場合——簡易な登記制度との違い
相続人申告登記だけでは、アパートの売却も抵当権の設定もできません。これは相続登記の義務化と同時に新設された簡易な制度で、名前が似ているため混同されやすいのですが、売却を考える方にとっては違いを正確に知っておくことが重要です。
相続人申告登記とは
相続人申告登記は、登記簿上の所有者が亡くなったこと、そして自分がその相続人であることを法務局に申し出る制度です。相続人のうち一人が単独で申し出ることができ、他の相続人の同意は不要です。必要書類も、自分が相続人であることを示す範囲の戸籍で足りるため、通常の相続登記より負担が軽く、登録免許税もかかりません。申出をすると、その相続人については相続登記の義務を果たしたものとみなされます。
できないこと——売却と抵当権設定の前提にはならない
ただし、相続人申告登記は不動産の権利関係を公示するものではありません。誰がどの持分を取得したかを確定して示す登記ではないため、法務省の案内でも、相続した不動産を売却したり抵当権を設定したりする場合には、別途、相続登記の申請が必要であることが明記されています。また、遺産分割が成立した後に生じる登記の義務も、相続人申告登記では履行できません。
使いどころ——「まず義務を果たす」ための制度
相続人申告登記が想定しているのは、相続人が多数で戸籍の収集に時間がかかる場合や、遺産分割がすぐにはまとまらない場合など、期限内に通常の相続登記をすることが難しいケースです。義務違反を避ける手段としては有効ですが、売却を視野に入れているのであれば、最初から相続登記を目指すほうが、手続の重複を避けやすくなります。
遺産分割がまとまっていないときの登記と分け方
相続人が複数いて、遺産分割協議がまとまっていない。それでも売却の準備を進めたい。このような場合に知っておきたいのが、法定相続分で登記する選択肢と、遺産分割の一般的な4つの方法です。
法定相続分で登記する選択肢
遺産分割が未了でも、法定相続分に基づく相続登記は申請できます。相続人の一人から、相続人全員の名義で申請することも可能です。ただし、他の相続人に相談せずに進めると、その後の協議に影響することがあるため、事前の共有をおすすめします。なお、申請人にならなかった相続人には登記識別情報(いわゆる権利証に相当する情報)が通知されません。売却の決済では売主全員の登記識別情報が原則必要になるため、後から司法書士による本人確認情報の作成など、追加の手続と費用が生じることがあります。全員で売却する見込みがあるなら、全員が申請人になる形が手戻りの少ない進め方です。
法定相続分で登記した後に遺産分割協議がまとまった場合の手続は、2023年4月から簡素化されました。以前は持分の移転登記として登録免許税(不動産の価額の0.4%)がかかっていましたが、現在は「更正登記」として、持分が増える相続人が単独で申請でき、登録免許税は不動産1個につき1,000円です。まず法定相続分で登記しておき、後から協議の内容に合わせて整える、という進め方の負担が下がっています。
遺産分割の4つの方法——一棟アパートの場合はどうなるか
遺産分割には、一般に次の4つの方法があります。それぞれに向き不向きがあり、どれが優れているというものではありません。
- 現物分割:財産ごとに取得者を決める方法です。「アパートは長女、預貯金は長男」のように分けます。主な財産がアパート1棟の場合は、相続人の間の取得額の調整が課題になります。
- 代償分割:一人がアパートを取得し、他の相続人に金銭(代償金)を支払う方法です。取得する人に資力があることが前提になります。
- 換価分割:アパートを売却し、売却代金を相続人で分ける方法です。売却を前提に話し合う場合に関係の深い方法です。
- 共有分割:協議で持分を定め、相続人の共有で取得する方法です。保有を続ける場合は、管理の方法や将来の売却について、共有者の間で合意しておく必要があります(次の章で述べます)。
なお、一人が取得した後にその人が売却する場合など、換価分割以外の方法から売却に至ることもあります。
換価分割で売却する場合の登記の流れ
換価分割を選ぶ場合、登記の進め方は主に2通りです。一つは、相続人の共有名義で相続登記をしたうえで、共有者全員が売主となって共同で売却する方法です。このときの持分は法定相続分に限られず、協議で定めた代金の分配割合と整合しているかを確認します。もう一つは、換価・分配のために代表相続人の名義で登記する方法です。この場合は、相続人全員の合意のもと、換価分割の目的、売却代金から控除する費用、分配割合、代表者の役割を遺産分割協議書で明確にし、その内容に沿って実行する必要があります。どちらの方法でも、登記方法は司法書士に、税務上の扱いは顧問税理士に、協議書を作成する前に確認してください。
なお、遺産分割協議そのものに法律上の期限はありません。ただし、相続税の申告期限や、相続税額を取得費に加算できる特例の期限は、分割の進み方と関わります。これらの税金の論点は、冒頭でご案内した税金の記事に整理しています。
共有名義になったアパートを売るときの前提
遺産分割の結果、あるいは分割を先送りした結果として、一棟アパートが相続人の共有名義になっているケースは少なくありません。共有物件の売却には、単独名義とは異なる前提があります。
共有者全員の合意が原則
共有している不動産の全体を売却することは、民法上の「処分」にあたり、共有者全員の同意が必要です。持分の割合が大きい人であっても、一人で全体を売ることはできません。2023年4月に施行された改正民法で、軽微な変更については持分の過半数で決められるようになりましたが、売却のような処分行為については全員同意の原則が維持されています。
自分の持分だけを第三者に売却することは法律上可能ですが、他人と共有する形になる持分を買う人は限られ、価格も全体を売る場合と比べて低くなる傾向があります。実務上は、共有者全員で全体を売却する形が基本になります。
合意形成の材料をそろえる
共有アパートの意思決定が止まる原因の多くは、「いくらで売れるのか分からない」「持ち続けた場合に誰がどれだけ負担するのか決まっていない」という情報の不足です。賃料収入の分配、管理会社とのやり取り、修繕費の分担が曖昧なまま共有を続けると、売る・持つのどちらの判断もしにくくなります。
この段階で役に立つのが、仲介会社など相続人以外による査定書です。現在の想定売却価格と、その根拠(収益還元法・取引事例・原価法)が示されていれば、「売る」「持ち続ける」「一人が他の共有者の分を引き取る」という選択肢を、同じ数字を前提に比べられます。ただし、査定は売却を前提とした市場価格の目安であり、不動産鑑定士による鑑定評価や、相続税評価・遺産分割上の評価とは異なります。代償金や持分の買取り価格の算定は、弁護士や税理士などの専門家にご確認ください。査定の考え方は一棟マンションの査定方法3つを解説|収益還元法・取引事例比較法・原価法で解説しています。
所在が分からない共有者がいる場合
共有者の中に所在が分からない人がいると、全員の同意が得られず売却が止まります。この場合、調査を行ったうえで、裁判所の決定によりその共有者の持分を取得したり、第三者へ譲渡する権限を得たりする制度(2023年4月開始)を検討できることがあります。ただし、単に返答がない場合や売却に反対している場合に、そのまま利用できる制度ではありません。また、相続によって生じた共有(遺産共有)では、相続開始から10年を経過していることが必要になるなど、条件があります。利用できるかどうかは弁護士に確認してください。相談すべき場面の目安は収益物件売却で弁護士相談が必要な5場面と費用相場にまとめています。
共有のまま持ち続ける場合に決めておくこと
売却ではなく共有のまま保有を続ける選択をする場合は、賃料の分配方法、修繕の意思決定、管理会社との窓口、そして将来の売却条件を、書面で決めておくことをおすすめします。共有者の一人に次の相続が発生すると、持分がさらに細分化され、関係者が増えます。相続を重ねるほど合意が難しくなる構造は、富裕層・経営者の不動産投資 失敗例6選と回避策でも取り上げています。共有の管理と承継を整理する手段として、家族信託を検討するケースもあります(一棟収益物件の信託活用と相続スキーム)。
登記から売却準備までの順番と、決済までに揃える名義・書類
ここまでの内容を、実際の段取りに落とし込みます。時間の目安と、決済までに確認しておく名義のポイント、そろえる書類の一般例です。
順番と時間の目安
相続人と物件の確定に使う戸籍の収集は、数週間から2か月程度かかることがあります。被相続人の本籍地が複数回変わっている場合は、さらに時間を要します。この間に、机上査定と物件資料の整理を並行して進めます。遺産分割協議がまとまれば協議書を作成し、相続登記を申請します。申請から完了までの期間は管轄法務局の処理状況などによるため、司法書士を通じて見込みを確認しておきます。
登記完了後、または完了の見込みが立った段階で媒介契約を結び、販売活動に入ります。販売活動から決済までの期間は一般に3〜6か月が目安とされており、詳しくは冒頭でご案内した売却の流れの記事にまとめています。相続の発生から決済までの総期間は、遺産分割や売却方針が決まる時期によって大きく変わります。戸籍の収集・登記・販売活動にはそれぞれ時間が必要ですが、査定や資料整理は並行して進められます。決済日は、管轄法務局の処理状況、買主の融資審査、必要書類の準備状況を確認して設定します。
進め方の一例(モデルケース)
郊外の木造一棟アパート(8戸・築30年)を、姉(50代・会社員)と弟(40代・自営業)の2人が相続したケースを想定します。遺産分割の方針が決まらないまま半年が経過していましたが、まず法定相続分(各2分の1)で相続登記を申請し、並行して机上査定で価格帯の目安を2人で共有しました。査定書を材料に換価分割で合意して協議書を作成し、2人が売主となって媒介契約を締結。販売開始から約2か月で買主が決まり、契約から約1か月半で決済に至りました。相続登記の申請から決済までは約5か月です。期間はあくまで一例で、物件の状況や相続人の人数、金融機関の審査期間によって変わります。
決済までに確認する名義のポイント
登記事項証明書を取得し、次の点を確認します。
- 所有者の名義:被相続人のままか、すでに相続人名義か。数世代前の名義のままになっている場合は、その間の相続もさかのぼって整理する必要があります。
- 被相続人の住所:登記簿上の住所と最後の住所が一致しない場合、相続登記の際につながりを示す書類が追加で必要になります。
- 相続人自身の住所:相続登記の後に転居した場合は、売却までに住所変更登記が必要です。2026年4月1日から住所等の変更登記も義務化され、変更から2年以内の申請が求められています(施行前の変更分は2028年3月31日まで)。
- 法人名義の場合:法人が所有する不動産は、その法人の株主などが亡くなっても、原則として法人名義のままです。たとえば株式会社の場合、相続の対象となるのは被相続人が保有していた株式で、会社所有の不動産そのものではありません。ただし、法人の本店移転や商号変更があった場合は、不動産登記簿上の所有者の住所・名称も変更登記で現在の内容に合わせておく必要があり、未了だと決済前に手続が必要になります。
- 抵当権の有無:被相続人の借入に伴う抵当権が残っている場合、債務の承継と決済時の抹消手続を金融機関と調整します。
決済までにそろえる書類(一般的な例)
- 戸籍一式(被相続人の出生から死亡までの戸籍と、相続人の現在の戸籍)
- 被相続人の住民票の除票(亡くなった方の最後の住所を示す住民票)
- 不動産を取得する相続人の住民票、遺産分割協議に必要な印鑑証明書など(必要な範囲は登記方法により異なります)
- 遺産分割協議書(協議で分割した場合)
- 固定資産評価証明書(登録免許税の算定に使います)
- 登記識別情報(いわゆる権利証に相当する情報。相続登記の際に通知を受けている場合に、売却の決済で使います。通知されていない場合は、司法書士に代替手続を確認します)
- 賃貸借契約書・レントロール・管理委託契約書などの賃貸経営関係の書類
上の図と一覧は一般的な例です。個別の案件で必要な書類は、司法書士と仲介会社が決済前に確認します。登記関係の書類は司法書士が、賃貸経営関係の書類は仲介会社が、それぞれ整理の主体になることが多く、早い段階で両者に共有しておくと手戻りが減ります。
相続登記の費用の構造と専門家の役割分担
「費用がいくらかかるか読めないから、登記を先送りしている」というお話をよく伺います。費用の構造と、誰に何を相談すればよいかを整理しておくと、判断が進みます。
費用の構造——登録免許税・実費・専門家報酬
相続登記の費用は、大きく3つに分かれます。第一に登録免許税で、相続による所有権移転登記は、不動産の固定資産税評価額の0.4%です。土地・建物ともに対象で、たとえば土地と建物の評価額の合計が5,000万円であれば20万円が目安になります(一例)。第二に、戸籍謄本や住民票、登記事項証明書などの取得にかかる実費です。第三に、司法書士に依頼する場合の報酬で、物件数や相続人の数によって変わります。
登録免許税には免税措置があります。相続で土地を取得した人が登記をしないまま亡くなった場合に、その亡くなった方を名義人とするための登記(数次相続の中間の登記)と、土地の価額が100万円以下の場合の相続登記は、2027年3月31日までの申請であれば登録免許税がかかりません。いずれも土地が対象で、建物には適用されません。中間の名義人から現在の相続人への登記には、「登記をしないまま亡くなった方を名義人とするための免税措置」は適用されません。ただし、土地の価額が100万円以下の場合の免税措置などに該当する可能性があります。適用の有無は司法書士に確認してください。また、法定相続分で登記した後に遺産分割の内容に合わせて行う更正登記の登録免許税は、前述のとおり定額です。
誰に何を相談するか——役割分担の目安
相続した不動産の売却には、複数の専門家が関わります。それぞれの役割を知っておくと、相談先を迷わずに済みます。登記の申請や書類の作成は司法書士の業務です。相続人の間に意見の対立がある場合の交渉・調停・訴訟や、所在不明の共有者に関する裁判所の手続は弁護士が担います。相続税の申告、譲渡所得の計算、特例の適用可否は税理士の領域です。法務局にも、相続登記の手続に関する相談窓口があります。
不動産会社は、物件の現在価値の把握、売却方針の整理、買主の探索、そして決済までの段取りを担います。相続人の方が専門家をまだ決めていない場合は、必要に応じてご紹介することも可能です。
当社が担う範囲
当社は、投資用一棟収益物件を専門に扱う仲介会社として、相続したアパートの現在価値の把握、売却か保有かを比較するための材料の整理、売却を選ばれた場合の販売活動と決済の段取りを担います。登記や税務の判断には立ち入らず、司法書士・税理士・弁護士と役割を分けたうえで、売却の実務を進めます。共有名義の場合、媒介契約の締結と売却の実行には共有者全員の意思確認が必要ですが、価格の目安を知るための初期のご相談は、共有者のお一人からでもお受けしています。
相続人同士で売るか持ち続けるかを話し合うために、まず売却価格の目安を知りたい方は、お気軽にご相談ください。
※ご相談・査定は無料で、売却の義務はありません。営業電話なし・秘密厳守で対応します。査定は売却を前提とした市場価格の目安であり、登記手続の要否や税額を判定するものではなく、鑑定評価や遺産分割上の評価を示すものでもありません。現在の価格の目安だけを知りたい方は無料査定サイトもご利用いただけます。
よくある質問
Q1. 相続登記が未了のまま、アパートの売買契約を結べますか?
相続登記が未了でも、売買契約を結ぶことは可能です。ただし、契約の前に、売主となる相続人と売却する権限、共有の場合は売主となる全員の意思を確認します。登記が済んでいない理由と完了の見込みを買主に説明し、決済日までに登記の準備が整わない場合の決済延期や契約解除などの扱いを、契約内容として確認しておくことが必要です。買主や金融機関の判断によっては、登記の完了を契約の条件とされることもあります。
Q2. 相続人申告登記をすれば売却できますか?
できません。相続人申告登記は登記の義務を果たすための簡易な制度で、権利関係を公示するものではないため、売却や抵当権の設定には別途、相続登記が必要です。売却を考えている方は、最初から相続登記を目指すことをおすすめします。
Q3. 遺産分割が未了(まとまっていない)でも、アパート売却の準備は進められますか?
机上査定、物件資料の整理、戸籍の収集、相続人それぞれの意向確認は進められます。売買契約の前には、売主と売却権限を確認し、共有の場合は共有者全員の売却意思を確認します。遺産分割が未了でも、法定相続分による共有者全員で売却する方法があります。相続登記は決済前の完了が基本で、決済時に続けて申請する場合は司法書士・買主・金融機関への事前確認が必要です。準備を先に進めておくことで、合意ができた時点ですぐに販売活動へ移れます。
Q4. 共有名義のアパートで、きょうだいの一人が売却に反対しています。どうすればよいですか?
共有物件の全体を売却するには全員の同意が必要なため、一人でも反対があれば全体の売却はできません。選択肢の一つは、一人が取得して他の相続人に金銭を支払う方法です。遺産分割が未了なら、法定相続分で登記済みでも代償分割を検討できます。遺産分割により共有で取得することが確定している場合は、持分の売買などを検討します。このほか、時間をかけて条件を協議する、相続人以外による査定書で価格の認識をそろえる、といった方法があります。話し合いが行き詰まった場合は、遺産分割調停や共有物分割など、状態に応じた手続を弁護士に相談してください。
Q5. 相続登記の費用はどれくらいかかりますか?
登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)、戸籍などの実費、司法書士に依頼する場合の報酬の合計です。登録免許税には、数次相続の中間の登記(亡くなった相続人を名義人とする土地の登記)と、価額100万円以下の土地について、2027年3月31日までの免税措置があります。適用の有無は司法書士にご確認ください。具体的な金額は、物件の評価額と相続人の数によって変わります。
Q6. 2027年3月31日を過ぎると、どうなりますか?
期限を過ぎた時点で自動的に過料が科されるわけではありません。法務省の案内では、登記官の催告に正当な理由なく応じなかった場合に裁判所へ通知する運用とされており、その場合に10万円以下の過料の対象になります。売却ができなくなる制度でもありません。ただし、登記を先送りしている間に相続人の一人に次の相続が発生すると、関係者が増えて手続が複雑になります。
Q7. 相続登記の後に引っ越しました。登記簿の住所はそのままで売却できますか?
決済までに住所変更登記が必要です。2026年4月1日から住所等の変更登記も義務化され、変更から2年以内の申請が求められています。売却の直前になって気づくと決済日程に影響するため、登記事項証明書で現住所との一致を早めに確認してください。
Q8. 相続税や譲渡所得税の期限との関係はどう考えればよいですか?
税金の論点は本記事では扱っていません。相続税の申告期限や取得費加算の特例の期限と、登記スケジュールの関係は、別記事相続した一棟アパートを売却する際の税金と注意点で整理しています。具体的な税額や特例の適用可否は顧問税理士にご確認ください。
まとめ——名義を整えることが、売却の選択肢を広げる
相続登記が済んでいない一棟アパートでも、登記の段取りを整えれば売却はできます。決済前に相続登記を終えるのが基本で、決済時に続けて申請する場合も、司法書士・買主・金融機関の事前確認が必要です。相続登記は2024年4月から義務になり、2024年4月より前の相続は原則2027年3月31日が申請期限(施行後に取得を知った場合は、その日から3年以内)ですが、これは登記の期限であって売却の期限ではありません。
売却を考える方が押さえておきたいのは、次の4点です。
- 簡易な「相続人申告登記」では売却も抵当権設定もできない。売却を視野に入れるなら最初から相続登記を目指す。
- 遺産分割がまとまらなくても、法定相続分での登記、机上査定、書類収集は先に進められる。後から協議の内容に合わせる更正登記は定額の登録免許税で済む。
- 共有名義の売却は共有者全員の合意が前提。価格の目安を共有することが、話し合いの土台になる。
- 決済までに、所有者名義・住所・抵当権の状態を登記事項証明書で確認し、必要書類を司法書士と仲介会社で分担してそろえる。
相続した物件の整理は、登記・税務・法律・不動産の4つの領域が重なる作業です。それぞれの専門家と役割を分けて進めることで、手戻りを減らし、相続人の間の合意も形になりやすくなります。名義を整えることは、売る場合にも持ち続ける場合にも、選択肢を広げるための準備です。
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- 営業電話なし・秘密厳守
※売主応援割は、一般媒介の場合1.5%(税別)、最低報酬20万円(税別)、対応エリアは当社から概ね30km圏内の物件が対象です。詳細は売却のご相談ページをご覧ください。
売却をご検討中の方は、現在の名義や遺産分割の状況を、分かる範囲でお知らせください。当社は価格の目安と売却準備をご案内し、登記や法律・税務の確認が必要な場合は、専門家をご紹介します。
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、登記・税務・法律に関する個別の判断を示すものではありません。登記手続は司法書士に、具体的な税額・税務判断を含む相続税・譲渡所得税などの税務は顧問税理士に、相続人の間の争いや権利関係の紛争は弁護士にご相談ください。制度の内容は2026年9月19日時点の法務省・国税庁の公表情報に基づいており、今後の改正等により変わる可能性があります。
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