一棟マンションの査定方法3つを解説|収益還元法・取引事例比較法・原価法【2026年版】
「査定額はどうやって出しているのだろう?」——一棟マンションの売却を検討する際、不動産会社から提示される査定額の根拠を理解しているオーナー様は意外と少ないものです。本記事では、一棟収益物件の査定で用いられる3つの主要な手法(収益還元法・取引事例比較法・原価法)のそれぞれの仕組み・計算例・メリット・デメリットを分かりやすく解説します。査定結果を「なんとなく」受け取るのではなく、自分で妥当性を判断できる知識を身につけましょう。
一棟マンション査定の3つの手法
一棟収益物件の査定には、大きく分けて3つの手法が用いられます。
| 査定手法 | 主な考え方 | 一棟収益物件との相性 |
|---|---|---|
| ① 収益還元法 | 物件が将来生み出す収益から価値を算出 | 最も重視される |
| ② 取引事例比較法 | 類似物件の過去の取引価格から算出 | 補足として有効 |
| ③ 原価法 | 土地価格+建物の再調達原価から算出 | 金融機関の担保評価で使用 |
一棟マンションのような収益物件では、収益還元法がメイン、取引事例比較法が補助的な参考値、原価法は金融機関の融資判断で使われるのが一般的です。
① 収益還元法(もっとも重要)
考え方
収益還元法は、その物件が将来的に生み出す家賃収入(収益力)をベースに物件の価値を算出する手法です。投資用物件の本質は「いくら稼げるか」であるため、収益物件の査定では最も重視される手法です。
2つの計算方式
| 方式 | 計算の特徴 | 精度 | 使用場面 |
|---|---|---|---|
| 直接還元法 | 1年間の純収益を還元利回りで割る | やや低い | 簡易な査定・初期スクリーニング |
| DCF法 | 将来数年間のキャッシュフローを割引現在価値に換算 | 高い | 精密な査定・大型物件 |
直接還元法の計算例
物件価格 = 年間純収益(NOI) ÷ 還元利回り(キャップレート)
計算例:
- 年間家賃収入:1,200万円
- 年間諸経費(管理費・修繕費・固定資産税等):300万円
- 年間純収益(NOI):900万円
- 還元利回り:6.0%
物件価格 = 900万円 ÷ 6.0% = 1億5,000万円
還元利回り(キャップレート)の決め方
還元利回りは査定額を大きく左右する重要なパラメータです。一般的には以下の要素で決まります:
- エリア(首都圏は低い=高評価、地方は高い=低評価)
- 築年数(新しいほど低い=高評価)
- 構造(RC > 鉄骨 > 木造)
- 入居率(高いほど低い=高評価)
- 周辺の取引利回り(市場データ)
2026年4月時点の一棟マンション全国平均利回りは7.36%(健美家レポート)。首都圏ではこれより低い4〜6%台、地方では8〜10%台が目安です。
メリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 収益物件の本質(稼ぐ力)に直結 | 還元利回りの設定次第で査定額が大きく変動 |
| 投資家目線の判断基準に合致 | 空室が多いと純収益が実態より低く計算される |
| 市場の期待利回りを反映できる | 将来の家賃変動・空室リスクを織り込みにくい(直接還元法の場合) |
② 取引事例比較法
考え方
取引事例比較法は、過去に成約した類似物件の取引価格を基準にして、立地・築年数・規模などの差異を調整して査定額を算出する手法です。住宅(マイホーム)の査定ではメインで使われますが、一棟収益物件では補足的な参考値として活用されます。
計算の流れ
- REINS(不動産流通機構)や自社データベースから類似物件の成約事例を収集
- 対象物件との差異を調整(立地・築年数・構造・規模・入居率など)
- 調整後の価格を算出
調整項目の例
| 調整項目 | 上方修正(+)の例 | 下方修正(−)の例 |
|---|---|---|
| 立地 | 駅徒歩3分(事例は5分) | 駅徒歩10分(事例は5分) |
| 築年数 | 築10年(事例は築15年) | 築25年(事例は築15年) |
| 構造 | RC造(事例は鉄骨造) | 木造(事例は鉄骨造) |
| 入居率 | 満室(事例は90%) | 80%(事例は90%) |
| 規模 | 20戸(事例は15戸) | 8戸(事例は15戸) |
メリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 実際の成約価格に基づくため客観性が高い | 一棟物件は個別性が高く「完全な類似物件」が見つかりにくい |
| 相場感を掴みやすい | 取引事例数が少ないエリアでは精度が低下 |
| 買主にも説得力がある | 市況の変動(上昇局面・下落局面)を反映しにくい |
③ 原価法
考え方
原価法は、対象物件を今の時点で新しく建て直したらいくらかかるか(再調達原価)を基準に、築年数に応じた減価を差し引いて査定額を算出する手法です。
計算式
査定額 = 土地価格 +(再調達原価 × 残存割合)
計算例:
- 土地価格(路線価ベース):6,000万円
- 建物の再調達原価(RC造・延床300㎡ × 25万円/㎡):7,500万円
- 経過年数:15年 / 耐用年数:47年(RC造)
- 残存割合:(47−15) ÷ 47 = 68%
- 建物評価額:7,500万円 × 68% = 5,100万円
査定額 = 6,000万円 + 5,100万円 = 1億1,100万円
主な使用場面
原価法は主に金融機関の融資審査(担保評価)で用いられます。物件の「積算評価」とも呼ばれ、融資可能額を判断する際の基準として重要です。
売却価格の査定としてはメインで使われることは少ないですが、「金融機関が融資しやすい物件か=買い手がつきやすいか」という観点では売却戦略に影響します。
メリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 計算根拠が明確で客観的 | 収益力(稼ぐ力)を反映していない |
| 金融機関の融資判断と連動 | 築年数が経過すると建物評価がゼロに近づく |
| 土地の資産価値を正しく評価できる | 市場の需給バランスを反映しにくい |
3つの手法の使い分けと実務上の注意点
実務ではどう使い分けられているか
| 査定の目的 | メインで使う手法 | 補助で使う手法 |
|---|---|---|
| 売却価格の査定 | 収益還元法 | 取引事例比較法 |
| 金融機関の担保評価 | 原価法 | 収益還元法 |
| 投資判断(購入時) | 収益還元法 | 原価法 |
査定額にバラつきが出る理由
複数社に査定を依頼すると、数百万円〜数千万円の差が出ることは珍しくありません。その主な原因は:
- 還元利回りの設定が各社で異なる(0.5%の差で査定額が数百万円変動)
- 採用する取引事例が異なる(どの成約事例を「類似」と判断するか)
- 空室の見込みや修繕費の前提が異なる
- 自社で買主を見つけられる自信の差(販売力のある会社ほど強気の査定)
査定結果を受け取ったらチェックすべき3つのポイント
- どの手法を使ったか — 収益還元法がメインか確認(原価法だけの査定は収益物件には不十分)
- 還元利回りの根拠 — 「なぜこの利回りを使ったのか」を説明できるか
- 前提条件 — 空室率・家賃設定・修繕費の想定は現実的か
まとめ
本記事のポイントを整理します。
- 一棟マンションの査定には収益還元法・取引事例比較法・原価法の3手法がある
- 収益物件では収益還元法が最も重視される(将来の収益力で価値を算出)
- 直接還元法の計算式は「年間純収益 ÷ 還元利回り」。還元利回りの設定が査定額を大きく左右する
- 取引事例比較法はREINSの成約データを元にした補足的参考値
- 原価法は主に金融機関の担保評価(積算評価)で使用
- 複数社に査定を依頼し、根拠と前提条件を比較することが重要
- 査定結果を受け取ったら「手法・利回り根拠・前提条件」の3点を必ずチェック
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※本記事は2026年4月時点の不動産鑑定実務に基づいて作成しています。査定手法や利回りの前提は物件・エリア・市況によって異なりますので、実際の査定にあたっては不動産会社にご確認ください。