節税対策

相続した一棟アパートを売却する際の税金と注意点【2026年版】

取得費加算の特例の期限3年10か月を示すカレンダーと砂時計のイメージ
INDEX目次

この記事のポイント

  • 取得費・所有期間は被相続人から引き継ぎ:取得時期によっては相続直後でも長期譲渡(20.315%)となることがあります
  • 取得費加算の特例:相続発生から3年10か月以内の売却で相続税の一部を取得費に加算可能
  • 節税効果の例:相続税2,000万円・課税価格2億円・売却物件評価8,000万円なら取得費に+800万円→約163万円の節税
  • 2027年5年ルール改正:相続直前の貸付用不動産取得による評価圧縮スキームに規制強化(2027年1月1日以後の相続から適用)

「親から相続した一棟アパートを売却したいが、税金の仕組みがよくわからない」——相続した収益物件の売却では、相続税と譲渡所得税の2つの税金が絡み合い、通常の売却よりも複雑な判断が求められます。本記事では、相続した一棟アパートを売却する際の税金の仕組み・計算方法・使える特例・売却までの実務フロー・注意点を2026年時点の税制に基づいて分かりやすく解説します。なお本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務判断は顧問税理士等にご確認ください。

相続した一棟アパートを売ると、税金は何がかかる?

相続した物件を売却する場合、以下の2つの税金が発生する可能性があります。

税金発生するタイミング概要
① 相続税相続発生時(被相続人の死亡日から10か月以内に申告)相続した財産全体に対して課税
② 譲渡所得税物件を売却した翌年の確定申告時売却益(譲渡所得)に対して課税

重要なのは、相続税と譲渡所得税は別々の税金であり、相続税を払ったからといって譲渡所得税が免除されるわけではありません。ただし、一定の条件を満たせば相続税の一部を譲渡所得税の計算に組み入れて節税できる特例(取得費加算の特例)があります(後述)。

相続物件の譲渡所得税はどう計算する?

基本の計算式

譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)
譲渡所得税 = 譲渡所得 × 税率

図A:譲渡所得の"引き算"早見図(相続物件・例)
1. 売却価格
1億円
2. − 取得費(被相続人から引き継ぎ/建物は減価償却費相当額を控除)
約3,000万円
3. − 譲渡費用(仲介手数料 等)
約350万円
4. = 譲渡所得
約6,650万円
5. × 税率(長期譲渡)
20.315%
6. = 譲渡所得税
約1,351万円
取得費は相続時の時価(例では1億円)ではなく、被相続人の取得費を引き継ぎます(建物は償却控除済)。取得費加算の特例を使えば取得費はさらに増やせます。

相続物件の「取得費」はどうなる?

相続物件の取得費は「被相続人(亡くなった方)の取得費を引き継ぐ」のが原則です。

つまり、親が30年前に5,000万円で購入した一棟アパートを相続した場合:

  • 取得費の基準 = 親の取得費を引き継ぐ(建物部分は減価償却費相当額を差し引いて計算。土地は償却しない)
  • 相続時の時価(例:1億円)ではない

この「取得費の引き継ぎ」により、長期保有された物件ほど取得費が小さく(減価償却が進み)、結果として譲渡所得(課税対象)が大きくなる傾向があります。相続した物件の減価償却が既に終了している場合、保有と売却のどちらが有利かの判断が変わります。「収益物件の減価償却が終わったら売却すべき?」もあわせてご検討ください。

取得費が分からない場合は?

取得費を証明できる書類が残っていない場合は、売却価格の5%を概算取得費として使う方法もあります。ただし実際の取得費より大幅に低くなることが多く、税負担が大きくなりやすいため、まずは契約書等の確認を優先します。

相続が発生した段階で、できるだけ早く購入時の書類(売買契約書・領収書)を探すことが重要です。

所有期間はどう判定される?(長期 vs 短期)

相続物件の所有期間は、原則として被相続人の取得日から通算し、売却した年の1月1日時点で5年超かどうかで長期・短期を判定します。

例えば、親が2010年に購入した物件を2025年に相続し、2026年に売却する場合:

  • 所有期間 = 2010年〜2026年 = 16年(被相続人の保有期間を含む)
  • 2026年1月1日時点で5年超 → 長期譲渡(20.315%)

つまり、相続直後に売却しても、被相続人の保有期間が5年超なら長期譲渡扱いになります。これは相続物件の大きなメリットです。

相続から3年10か月以内なら使える「取得費加算の特例」とは?

特例の概要

相続した物件を相続税の申告期限の翌日から3年以内(=相続発生から3年10か月以内)に売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度です。

取得費が増える = 譲渡所得が減る = 譲渡所得税が軽減される

図B:取得費加算の特例「3年10か月」タイムライン

相続発生

(被相続人の死亡)

10か月

10か月後

相続税の申告・納付期限

+3年

3年10か月後

取得費加算の特例が使える売却期限

相続税の申告期限(10か月)の翌日から3年以内=相続発生から3年10か月以内に売却すると、相続税の一部を取得費に加算できます。

加算できる金額の計算式

取得費に加算する相続税額 = その人の相続税額 × (売却した財産の相続税評価額 ÷ その人の相続税の課税価格)

計算例

  • 相続税額(支払い済み):2,000万円
  • その人の相続税の課税価格:2億円
  • 売却する一棟アパートの相続税評価額:8,000万円

取得費に加算する金額 = 2,000万円 × (8,000万円 ÷ 2億円) = 800万円

つまり、通常の取得費に800万円を上乗せして計算できるため、譲渡所得が800万円減り、税率20.315%なら約163万円の節税になります。

適用条件

  • 相続または遺贈により財産を取得した者であること
  • その財産を取得した者に相続税が課されていること
  • 相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続発生から3年10か月以内)に売却すること

期限を過ぎると適用できないため、相続発生後に売却を検討する場合は早めにスケジュールを確認してください。

2027年の「5年ルール」改正で何が変わる?

改正の概要

令和8年度(2026年度)税制改正大綱で、相続税評価で時価評価の対象となる貸付用(賃貸用)不動産の取得期間が「3年以内」から「5年以内」に延長されることが決定しています(令和9年=2027年1月1日以後の相続・贈与から適用。対象は対価を伴う取引で取得・新築した貸付用不動産に限られ、自宅・更地等の実需用は対象外です)。

図C:5年ルール改正:対象期間が3年→5年に
ポイント変わるのは"時価評価の対象期間"(評価方法そのものではありません)。対象は貸付用(賃貸用)不動産で、自宅・更地等は対象外
改正前

課税時期前【3年以内】に取得


改正後(2027/1/1以後の相続・贈与〜)

課税時期前【5年以内】に取得



+2年
相続税評価は通常、路線価等で市場価格より低く出ることがありますが、対象期間内に取得した貸付用不動産は時価評価となり、この差を使った評価圧縮が効きにくくなります。

不動産投資家への影響

この改正は主に「相続直前に貸付用(賃貸用)不動産を取得して評価額を圧縮する」対策への規制強化です。相続が見込まれるオーナー様で、今後貸付用不動産を追加取得して相続税対策を行う予定がある方は、2027年以降は5年間の保有期間が必要になる点を踏まえた計画が求められます。

相続発生から売却完了までの実務フロー

相続した一棟アパートを売却する場合、以下のステップで進みます。

ステップ内容期限・目安
1相続発生(被相続人の死亡)
2遺産分割協議・遺言の確認なるべく早く
3相続登記(名義変更)相続(取得)を知った日から3年以内(2024年4月〜義務化)
4相続税の申告・納付相続発生から10か月以内
5売却の準備(査定・媒介契約)相続登記完了後
6売却活動・売買契約・決済目安3〜6か月(市況・物件条件により変動)
7譲渡所得税の確定申告売却した翌年の2/16〜3/15

注意:相続登記の義務化(2024年4月〜)

2024年4月1日から、相続による不動産の名義変更(相続登記)が義務化されました。正当な理由なく3年以内に登記しなかった場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。

相続登記が完了していないと売却手続きが進められないため、売却を考えているなら早めに着手しましょう。

相続物件の売却でよくある失敗3選

失敗① 取得費加算の特例の期限を過ぎてしまう

相続発生から3年10か月以内に売却しなければ適用できません。「いつか売ろう」と先延ばしにしているうちに期限を過ぎ、本来使えた節税機会を逃すケースは少なくありません(影響額は条件により異なります)。

失敗② 被相続人の購入時書類を探さない

購入時の売買契約書・領収書が見つからないと、概算取得費(売却価格の5%)で計算せざるを得ず、税負担が大幅に増加します。相続発生後、できるだけ早く被相続人の書類を整理しましょう。

失敗③ 相続人間で売却の合意が取れず時間を浪費

複数の相続人がいる場合、売却の合意形成に時間がかかることがあります。遺産分割協議が長引くと、取得費加算の特例の期限も迫ってきます。早い段階で全員の意向を確認し、必要に応じて税理士・弁護士を交えた協議を行うことが重要です。

一棟収益物件の売却・査定をご検討の方へ

相続した一棟アパートの売却は、通常の売却よりも税務面の検討事項が多く、取得費加算の特例の期限を意識したスケジュール管理も重要です。アークリブでは、相続物件の売却に必要な査定から、売却実務までをご案内し、税務の最終判断が必要な事項は顧問税理士への確認ポイントを整理します。

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※本記事は2026年4月時点の税制に基づいて作成しています。税制は改正されることがあるため、実際の相続・売却・確定申告の際は最新情報を国税庁サイト等でご確認いただくか、税理士にご相談ください。

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