相続した一棟アパートを売却する際の税金と注意点【2026年版】
「親から相続した一棟アパートを売却したいが、税金の仕組みがよくわからない」——相続した収益物件の売却では、相続税と譲渡所得税の2つの税金が絡み合い、通常の売却よりも複雑な判断が求められます。本記事では、相続した一棟アパートを売却する際の税金の仕組み・計算方法・使える特例・売却までの実務フロー・注意点を2026年時点の税制に基づいて分かりやすく解説します。
相続した一棟アパートの売却で関わる2つの税金
相続した物件を売却する場合、以下の2つの税金が発生する可能性があります。
| 税金 | 発生するタイミング | 概要 |
|---|---|---|
| ① 相続税 | 相続発生時(被相続人の死亡日から10か月以内に申告) | 相続した財産全体に対して課税 |
| ② 譲渡所得税 | 物件を売却した翌年の確定申告時 | 売却益(譲渡所得)に対して課税 |
重要なのは、相続税と譲渡所得税は別々の税金であり、相続税を払ったからといって譲渡所得税が免除されるわけではありません。ただし、一定の条件を満たせば相続税の一部を譲渡所得税の計算に組み入れて節税できる特例(取得費加算の特例)があります(後述)。
譲渡所得税の計算方法(相続物件の場合)
基本の計算式
譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)
譲渡所得税 = 譲渡所得 × 税率
相続物件の「取得費」はどうなる?
相続物件の取得費は「被相続人(亡くなった方)の取得費を引き継ぐ」のが原則です。
つまり、親が30年前に5,000万円で購入した一棟アパートを相続した場合:
- 取得費の基準 = 親の購入価格5,000万円(30年分の減価償却を差し引いた未償却残高)
- 相続時の時価(例:1億円)ではない
この「取得費の引き継ぎ」により、長期保有された物件ほど取得費が小さく(減価償却が進み)、結果として譲渡所得(課税対象)が大きくなる傾向があります。相続した物件の減価償却が既に終了している場合、保有と売却のどちらが有利かの判断が変わります。「収益物件の減価償却が終わったら売却すべき?」もあわせてご検討ください。
取得費が不明な場合
被相続人の購入時の書類が残っていない場合は、売却価格の5%を概算取得費として使うことができます。ただしこの方法は実際の取得費より大幅に低くなることが多く、税負担が非常に大きくなるリスクがあります。
相続が発生した段階で、できるだけ早く購入時の書類(売買契約書・領収書)を探すことが重要です。
所有期間の判定(長期 vs 短期)
相続物件の所有期間は、被相続人の取得日から通算されます。
例えば、親が2010年に購入した物件を2025年に相続し、2026年に売却する場合:
- 所有期間 = 2010年〜2026年 = 16年(被相続人の保有期間を含む)
- 2026年1月1日時点で5年超 → 長期譲渡(20.315%)
つまり、相続直後に売却しても、被相続人の保有期間が5年超なら長期譲渡扱いになります。これは相続物件の大きなメリットです。
使える特例:「取得費加算の特例」
特例の概要
相続した物件を相続税の申告期限の翌日から3年以内(=相続発生から3年10か月以内)に売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度です。
取得費が増える = 譲渡所得が減る = 譲渡所得税が軽減される
加算できる金額の計算式
取得費に加算する相続税額 = その人の相続税額 × (売却した財産の相続税評価額 ÷ その人の相続税の課税価格)
計算例
- 相続税額(支払い済み):2,000万円
- 相続した全財産の課税価格:2億円
- 売却する一棟アパートの相続税評価額:8,000万円
取得費に加算する金額 = 2,000万円 × (8,000万円 ÷ 2億円) = 800万円
つまり、通常の取得費に800万円を上乗せして計算できるため、譲渡所得が800万円減り、税率20.315%なら約163万円の節税になります。
適用条件
- 相続または遺贈により財産を取得した者であること
- その財産を取得した者に相続税が課されていること
- 相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続発生から3年10か月以内)に売却すること
期限を1日でも過ぎると適用できないため、相続発生後に売却を検討する場合は早めにスケジュールを確認してください。
2027年施行の「5年ルール」改正にも注意
改正の概要
令和8年度(2026年度)税制改正大綱で、相続税評価における不動産の「3年ルール」が「5年ルール」に延長されることが決定しています。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 対象 | 課税時期前3年以内に取得した不動産 | 課税時期前5年以内に取得した不動産 |
| 評価方法 | 時価(通常の取引価額)で評価 | 時価で評価(従来通り) |
| 施行日 | — | 令和9年(2027年)1月1日以後の相続・贈与から適用 |
不動産投資家への影響
この改正は主に「相続直前に不動産を購入して評価額を圧縮する」という節税スキームへの規制強化です。相続が見込まれるオーナー様で、今後不動産を追加取得して相続税対策を行う予定がある方は、2027年以降は5年間の保有期間が必要になる点を踏まえた計画が求められます。
相続発生から売却完了までの実務フロー
相続した一棟アパートを売却する場合、以下のステップで進みます。
| ステップ | 内容 | 期限・目安 |
|---|---|---|
| 1 | 相続発生(被相続人の死亡) | — |
| 2 | 遺産分割協議・遺言の確認 | なるべく早く |
| 3 | 相続登記(名義変更) | 相続発生から3年以内(2024年4月〜義務化) |
| 4 | 相続税の申告・納付 | 相続発生から10か月以内 |
| 5 | 売却の準備(査定・媒介契約) | 相続登記完了後 |
| 6 | 売却活動・売買契約・決済 | 通常3〜6か月 |
| 7 | 譲渡所得税の確定申告 | 売却した翌年の2/16〜3/15 |
注意:相続登記の義務化(2024年4月〜)
2024年4月1日から、相続による不動産の名義変更(相続登記)が義務化されました。正当な理由なく3年以内に登記しなかった場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続登記が完了していないと売却手続きが進められないため、売却を考えているなら早めに着手しましょう。
相続物件の売却でよくある失敗3選
失敗① 取得費加算の特例の期限を過ぎてしまう
相続発生から3年10か月以内に売却しなければ適用できません。「いつか売ろう」と先延ばしにしているうちに期限を過ぎ、数百万円の節税機会を逃すケースは少なくありません。
失敗② 被相続人の購入時書類を探さない
購入時の売買契約書・領収書が見つからないと、概算取得費(売却価格の5%)で計算せざるを得ず、税負担が大幅に増加します。相続発生後、できるだけ早く被相続人の書類を整理しましょう。
失敗③ 相続人間で売却の合意が取れず時間を浪費
複数の相続人がいる場合、売却の合意形成に時間がかかることがあります。遺産分割協議が長引くと、取得費加算の特例の期限も迫ってきます。早い段階で全員の意向を確認し、必要に応じて税理士・弁護士を交えた協議を行うことが重要です。
まとめ
本記事のポイントを整理します。
- 相続した一棟アパートの売却では相続税+譲渡所得税の2つの税金が関わる
- 取得費は被相続人の取得価格を引き継ぐ(相続時の時価ではない)
- 所有期間も被相続人の取得日から通算。相続直後でも長期譲渡が適用されるケースが多い
- 「取得費加算の特例」で相続税の一部を取得費に加算できる(期限:相続発生から3年10か月以内)
- 2027年施行の5年ルール改正により、相続直前の不動産取得による評価圧縮スキームが制限される
- 相続登記の義務化(2024年4月〜)により、3年以内の名義変更が必須
- 被相続人の購入時書類の早期発見が節税の鍵
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相続した一棟アパートの売却は、通常の売却よりも税務面の検討事項が多く、取得費加算の特例の期限を意識したスケジュール管理も重要です。アークリブでは、相続物件の売却に必要な査定から、税理士との連携サポートまで、ワンストップでご相談を承っております。
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※本記事は2026年4月時点の税制に基づいて作成しています。税制は改正されることがあるため、実際の相続・売却・確定申告の際は最新情報を国税庁サイト等でご確認いただくか、税理士にご相談ください。