収益物件の買い替え特例完全ガイド|事業用資産の買換え・事業承継税制・相続時精算課税の活用法【2026年版】

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「古い収益物件を売って新しい物件に買い替えたいが、譲渡所得税が重くて踏み切れない」——そんな悩みを抱える一棟物件オーナーにとって、特定事業用資産の買換え特例(租税特別措置法37条)は強力な節税ツールです。一定の要件を満たせば、譲渡益の最大80%〜90%の課税を繰り延べできるため、売却資金を温存したまま資産規模を拡大できます。さらに、法人オーナーが後継者へ事業を引き継ぐ場合は事業承継税制(特例措置)、子や孫への資産移転を計画的に行いたい場合は相続時精算課税制度との併用で、税負担を大きく抑えることも可能です。本記事では、2026年4月時点の制度内容・適用要件・具体的な計算例・判断基準まで、実務的に解説します。

収益物件の「買い替え特例」とは何か

特定事業用資産の買換え特例(措置法37条)の基本

特定事業用資産の買換え特例とは、事業用として一定期間保有していた土地・建物等を売却し、同じく事業用の不動産に買い換えた場合、譲渡益のうち一定割合の課税を将来に繰り延べられる制度です。

項目内容
根拠法租税特別措置法37条
対象事業用の土地等・建物・構築物
効果譲渡益の80%(原則)の課税を繰り延べ
適用期限令和8年(2026年)3月31日まで(令和8年度税制改正で3年延長見込み)

「譲渡益の80%繰延」とはどういう意味か

誤解されやすいのですが、税金が免除されるわけではありません。売却時に本来課税されるはずだった譲渡益のうち20%部分のみが売却年に課税され、残り80%は買換資産の取得費に引き継がれることで、将来その買換資産を売却した時に課税される仕組みです。

買換え特例を使うメリットとデメリット

メリットデメリット
売却時の税負担を大幅に圧縮(約20%に縮小)買換資産の取得費が低くなるため、次回売却時の譲渡益が膨らむ
資産の組み替え(築古→新築、都心集約など)が容易3,000万円特別控除・軽減税率との併用不可
手元資金を温存したまま資産規模を拡大要件が厳格で、満たさないと適用不可
法人の場合は「圧縮記帳」として同様の効果青色申告・確定申告の手続きが必須

売却税負担の全体像は「一棟アパート売却にかかる税金と計算方法」、手取り計算は「収益物件の売却手取りはいくら?」もあわせてご参照ください。

買換え特例の適用要件と計算方法

9号買換え(最も使われる典型パターン)

一棟収益物件の買い替えで最も頻繁に使われるのが「9号買換え」です。要件は以下の通りです。

要件内容
所有期間譲渡の年の1月1日時点で10年超所有
譲渡資産国内にある事業用の土地等・建物・構築物
買換資産国内の土地等(300m²以上)・建物・構築物
取得時期譲渡年・前年・翌年のいずれかに取得
事業供用取得後1年以内に事業供用(賃貸開始など)
繰延割合原則80%(エリアにより60〜90%に変動)

繰延割合の特例(2024年改正以降)

繰延割合は、譲渡資産と買換資産の所在地によって異なります。

ケース繰延割合
通常のケース80%
東京都特別区(23区) → 集中地域以外へ移転90%(拡充)
集中地域外(地方) → 東京都特別区内へ移転60%(縮小)

※「集中地域」= 首都圏既成市街地・近畿圏既成都市区域・名古屋市の一部

具体例:築25年一棟アパート→新築物件への買い替え

前提条件:

  • 譲渡物件:東京郊外の築25年アパート(15年前に1億円で取得)
  • 売却価格:1.2億円
  • 譲渡費用:400万円
  • 買換物件:埼玉県内の新築一棟アパート 1.5億円
  • 繰延割合:80%(通常ケース)

ステップ1:通常の譲渡所得を計算

  • 建物減価償却後の取得費+諸費用:約7,500万円
  • 譲渡所得=1.2億円 −(7,500万円 + 400万円)=4,100万円

ステップ2:買換え特例適用時の譲渡所得

  • 課税対象(20%部分)=4,100万円 × 20% =820万円
  • 課税繰延分(80%部分)=3,280万円(買換資産の取得費に引継)

ステップ3:税額の比較

項目通常売却買換え特例適用
譲渡所得4,100万円820万円(20%のみ課税)
譲渡所得税(20.315%)約833万円約167万円
当期税負担約833万円約167万円
節税額(繰延効果)約666万円

ステップ4:次回売却時の注意点

将来、1.5億円の買換物件を売却する際、取得費は「購入価格1.5億円」ではなく「1.5億円 − 3,280万円(引継取得費調整)=1億1,720万円」となるため、将来的に譲渡益が大きくなります。あくまで繰延であり、完全な免税ではない点を必ず理解してください。

事業承継税制(特例措置)と収益物件の買い替え

法人オーナーが知っておくべき事業承継税制

法人で収益物件を保有する中小企業オーナーが、自社株を後継者(子・孫)へ移転する場合、法人版事業承継税制(特例措置)を活用すれば、非上場株式にかかる贈与税・相続税が100%納税猶予されます。収益物件を含む不動産資産の多い法人こそ恩恵が大きい制度です。

特例措置の適用期限(2026年4月時点)

項目期限備考
特例承継計画の提出期限2027年9月30日令和8年度税制改正で1年6ヶ月延長
贈与・相続の実行期限2027年12月31日期限後は一般措置(評価減・猶予割合縮小)に戻る
個人版事業承継計画2028年9月30日個人事業主向け(2年6ヶ月延長)

重要: 特例承継計画提出から実行期限まで約2年3ヶ月しか残されていないため、すでに事業承継の構想がある法人オーナーは今すぐ準備に着手すべき状況です。

収益物件の買い替えと事業承継税制の組み合わせ戦略

築古物件を抱えた法人が、事業承継を見据えて買い替えと株式移転を組み合わせる代表的な流れは以下の通りです。

ステップ施策効果
築古物件を買換え特例で売却→新築物件取得売却税80%繰延法人内のキャッシュ温存・含み損の実現(または圧縮記帳)
株価評価の低いタイミングで特例承継計画を提出評価額減・猶予準備後継者への移転税額を最小化
贈与・相続を実行(2027/12/31まで)納税猶予100%本来の贈与税・相続税を支払わずに経営権移転

2027年1月1日からの「5年ルール」に注意

2026年度税制改正で、非上場株式の純資産価額方式における不動産評価が変わります。

旧ルール: 課税時期前3年以内に取得した不動産は通常の取引価額(時価)で評価
新ルール(2027年1月1日以降): 5年以内に取得した不動産は時価評価

つまり、事業承継直前に収益物件を買い替えると、5年間は時価評価となり株価が下がらない仕組みです。買い替えと株式移転のタイミングは最低5年以上前に設計する必要があります。

貸付用不動産の特例(2026年度改正)

貸付用不動産については、取得価額を基に地価変動を考慮して計算した価額の80%で評価する方法も併設されます。収益物件中心の法人は、従来より有利な評価が可能になるケースもあります。

法人決算との兼ね合いについては「法人所有の収益物件を売却するベストタイミングは?」もご参照ください。

相続時精算課税制度と収益物件移転の活用法

相続時精算課税制度の基本(2024年改正以降)

個人オーナーが子や孫(18歳以上)に収益物件を生前贈与する際、選択できるのが相続時精算課税制度です。

項目内容
贈与者60歳以上の父母・祖父母
受贈者18歳以上の子・孫
特別控除2,500万円(累計)
基礎控除(2024年新設)年110万円(毎年・別枠)
税率特別控除超過分に一律20%
相続時贈与額を相続財産に加算して相続税計算(基礎控除分は加算不要)

計算式

贈与税 = {(年間贈与額 − 年110万円基礎控除)の累計 − 特別控除2,500万円} × 20%

具体例:評価額3,000万円の収益物件を子に贈与

前提条件:

  • 贈与物件:築20年木造アパート(相続税評価額3,000万円)
  • 受贈者:息子(35歳)
  • 他の贈与なし

暦年課税を選んだ場合

  • 基礎控除:年110万円
  • 課税対象:3,000万円 − 110万円 = 2,890万円
  • 贈与税:2,890万円 × 50% − 250万円(特例税率)= 約1,195万円

相続時精算課税を選んだ場合

  • 基礎控除:年110万円(相続財産加算も不要)
  • 特別控除後の課税対象:3,000万円 − 110万円 − 2,500万円 = 390万円
  • 贈与税:390万円 × 20% = 78万円

節税効果:約1,117万円

ただし、相続発生時に2,890万円分(110万円分を除く)を相続財産に加算して相続税が計算されるため、完全な非課税ではない点に注意が必要です。

収益物件を相続時精算課税で移転するメリット

メリット詳細
毎月の家賃収入を子世代へ移転親の所得を増やさず、子の資金形成に寄与
評価額固定贈与時の評価額で相続時に加算されるため、将来値上がり分は非課税
基礎控除110万円は毎年使える特別控除と別枠で計画的に活用可能
収益物件の収益性を現役世代が享受相続を待たずに資産移転の効果

注意点:一度選択すると暦年課税に戻れない

相続時精算課税制度は同一の贈与者からの贈与について一度選択すると取り消せません。複数の贈与者(父・母など)については、それぞれ別個に選択できます。慎重な検討が必要です。

買い替えか売却か?3つの判断基準

判断基準① 「税金の総額」だけで比較しない

買換え特例は繰延効果であり免税ではないため、短期で再売却予定なら恩恵は薄まります。一方、10年以上保有を継続する計画なら、繰延分を運用に回せる「時間価値」が大きな利益になります。

ケース買換え特例の有利度
3〜5年で再売却予定△(繰延分をすぐ支払うため効果小)
10年以上保有予定◎(繰延分を運用できる時間価値が大)
事業承継直前◎(株価評価との組み合わせ効果)
収益物件から完全撤退×(売却で現金化が合理的)

判断基準② 「出口戦略全体の設計」で判断する

買い替えか売却かの判断は、単発の物件だけでなくポートフォリオ全体の出口戦略で考える必要があります。

  • 築古物件を売却→新築に買い替え → キャッシュフロー改善 + 減価償却の再スタート
  • 複数物件を売却→都心一極集中 → 管理コスト削減・流動性確保
  • 収益物件を売却→株式・REIT・事業投資 → 完全な資産組み替え

出口戦略の選択肢は「収益物件の出口戦略|売る・持つ・組み替えの判断基準」で詳しく解説しています。

判断基準③ 「相続・事業承継まで含めた10年設計」で決める

買い替え特例を使っても、次世代への移転時に多額の税金が発生すれば意味がありません。

段階選択肢税制ツール
売却〜再取得買換え特例措置法37条(80%繰延)
法人株式の移転事業承継税制特例措置(100%納税猶予)
個人物件の移転相続時精算課税特別控除2,500万+年110万基礎控除
最終的な相続小規模宅地等の特例貸付事業用宅地200m²まで50%減

10年タイムラインを設計することで、買い替え時の繰延と事業承継時の評価減が噛み合い、税引後の世代間資産移転を最大化できます。

まとめ|買い替え特例は「使うかどうか」より「いつ使うか」

項目ポイント
買換え特例措置法37条・譲渡益の80%を課税繰延(令和8年3月31日まで、延長見込み)
所有期間10年超(譲渡年1月1日時点)
買換資産国内の土地等(300m²以上)・建物・構築物
事業承継税制特例承継計画:2027年9月30日まで/実行:2027年12月31日まで
5年ルール2027年1月1日から不動産評価は5年以内取得分を時価評価
相続時精算課税特別控除2,500万+年110万基礎控除(2024年改正)
判断基準保有年数・出口戦略・10年タイムライン設計

買い替え特例は「税金を消す」のではなく「税金の発生タイミングを自在にコントロールする」ための制度です。事業承継や相続を見据えた10年単位の長期設計の中で組み立てることで、真価を発揮します。無料の「事業計画シミュレーター」では譲渡所得税込みの30年CFを試算可能ですので、買い替え検討時の初期分析にぜひご活用ください。

売却・買い替えタイミングの判断は「収益物件は2026年に売るべき?」、具体的な売却手続きは「一棟アパート売却の流れを5ステップで解説」もあわせてご覧ください。

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